最高裁判所第三小法廷 昭和31年(オ)508号 判決 1960年3月22日
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人菊池哲春の上告理由第一点について。
原判決は、挙示の証拠によつて、本件建物の取毀直前の状態を判示して、本件建物に対する全体的観察によると、建物としてはもはやその効力を失つたものと判断しているのであつて、所論のように単に経済的理由によつてのみ本件建物の朽廃という事実を断定したものでないことは原判文上明らかである。そして、原判決挙示の証拠によると右認定は首肯することができ、その認定にかかる事実関係の下においては、本件建物が借地法二条一項但書にいわゆる朽廃の域に達したものとした原判決の判断は相当であり、原判決には所論の違法はない。論旨は採用できない。
同第二点について。
原判決は、挙示の証拠によつて、所論従前と同一内容の賃貸借契約が成立したことを認定できないと判示しており、右認定は首肯できるから、所論は原判決において適法になした事実の確定を非難するに帰し採用できない。また権利濫用の主張も理由がない。
同第三点について。
所論原審の判示は、請負人たる訴外藤堂角太郎が本件土地を占有(直接占有)しているとしても、そのことから、上告人の占有、すなわち、間接占有がなくなるものではない旨説示したものと解すべきであり、所論原判示は相当であるから、所論は採用できない。
よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 高橋潔 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 垂水克己 裁判官 石坂修一)